2004/12/18

イリーガル・マインド ・10・


「あ~、満腹満腹」

グレイスが大声でそういうと、店のドアを押しやって開けた。
クロムはそれをいささか冷ややかな目で見やる。

「…クロム、」

ユイトの控えめな掛け声に、クロムはその瞳を向ける。

「なんだよ」
「…君はこれからどうするんだい?」

取り繕うように、けれど決して媚びるそぶりは見せずに、ユイトはクロムに訊ねる。
クロムはとりあえず警戒を解いてそれに答えた。

「そうだな…また稼ぎにでも行くかな」
「ストリートファイト?」
「それしか食い扶持ないからな」

なら、とユイトが口を開きそうになるのを待たずに、クロムはアイリスを見やった。

「アイリス、お前はどうするんだ?俺に会いに来て、もう用事は終わったろ?早く安全な家に帰れよ」

突然のクロムの言葉に、アイリスは目を丸くして抗議する。

「えええ!?もう帰んなきゃダメなの!?いいじゃんクロム~!もっと遊ぼうよ~!」

アイリスはいやいやと頭を振ってクロムの手を掴んだ。
その肩に、グレイスの手が伸びる。

「な~んだアイリスちゃん、そんなことなら俺が相手してやるぜ?」
「スケボーは?乗せてくれるんじゃなかったの?」
「俺はスケボーは苦手だな…」
「後ろに乗せて、見たいところどこでも連れてってくれるって言ったじゃない」
「いつそんな話したんだクロム!」
「ねえクロム~!」

「グレイス…いい加減諦めなよ」
「くッ…なかなかつかめない子だ…」

脱力したグレイスの肩に、ユイトが手を乗せる。
とその時、いつの間にかアイリスに首根っこをつかまれ、がくがくと揺さぶられていたクロムは突如大声をあげた。

「ああああ!思い出した!!そういや俺、いまスケボー調整に出してて…取りに行かなきゃならないんだった…」

その声に、やっとアイリスの手が止まる。

「この辺に、技工士なんていないだろ?どこに頼んできたんだい?」

ユイトが訊いてくるので、クロムも条件反射のように答える。

「ああ、ノームベリーにいい腕の店があって…」

ノームベリーとは、ホワイトバレイから二街越えた所にある、職人の街として有名な場所だ。

「ノームベリーか。結構遠いね…」
「はいはいはーい!私も一緒に行きたいでーす!」

アイリスが手を上げて声を上げる。
「え!?いや俺はいいけど…遠いよ?一晩かかるけどそれでもいいのか?帰ったほうが…」
「いいの!連れてってよクロム~」
「…まあ、いいけど…」

ごにょごにょと口の中で呟きをもらすクロムに、グレイスが声をかける。

「じゃあ、俺たちも一緒に行くから」
「あぁ!?何でだよ!!」
「女の子と二人っきりになんてさせるかよ!」
「なんだそれ、お前頭腐ってるよ!」
「なーんとでも言え!ついてくからな!」

強引な決定により、グレイスはクロムの首を掴んで引きずるように歩き出す。
クロムは、それになんとなく反論できないまま、仕方なくされるがままについて行く。

街に着くのは、もっと遅くなるかもしれない。
そんな暢気なことを考えながら。

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2004/11/23

イリーガル・マインド ・9.5・

※おまけですんで色々おかしいのは勘弁してください(笑)

様子のおかしいグレイスとユイトに、クロムは戸惑っていた。
自分のせいか…
はたまた、アイリスが言ってた…その…

ピーピーピーってことになってしまったからなのか…(笑)


悶々と思い悩むクロムの席もとへ、ウェイトレスがやって来た。


「お待たせいたしました。こちら『マンハッタン』です。ご注文は以上でよろしいですか?」
「ああ、それ俺ね。どうも~」
「ごゆっくりどうぞ」

ウェイトレスが運んできたカクテルを、一気に飲み干すと、グレイスはチェリーを取り出した。
日が透けて、何かの宝石のように輝いて見えるそれは、レッドチェリーの名に相応しく、真っ赤だった。

「な、綺麗だろ、これ。これがないとなんか物足りねぇんだよな…クロムの瞳みたいだろ?」
「…そうか?」
「ああ、確かに綺麗だね…僕はクロムの瞳の色、好きだよ」
「そ、そうか…?」
「口説き文句みたいだな、ユイト…」
「別にそういうつもりじゃ…」

「よく使うの?グレイス…
(なによなによ!みんなクロム狙いなわけ!?)」←?(笑)

なぜか敵愾心いっぱいに聞いてくるアイリス。
グレイスは笑い含みに応える。

「そうだねー、たとえば…よっと」

グレイスは体勢を変えると、クロムの手をとる。

「クロム…君の穢れなき瞳の輝きは、この愚かな男の心を焼き払ってしまうように眩しい…どうか、その瞳で俺を清めてくれないか…

…なんてね」


しばしの沈黙


「…気持ち悪いよ、グレイス…」

「あんだと!人が真面目にやってんのに!」
「あははは!グレイス、今の面白かった!!他のないの他の!!」
「アイリスちゃん…ι」

なんだよもう、と言いながら悪態をつくグレイス。

「ところで、グレイスっていくつなの?お酒飲んでいいわけ?」

アイリスは無邪気そうにグレイスに問う。
ここで法の話をしてもどうしようもない気がするが…

「残念でした~!俺は3ヶ月前に二十歳になりました!」
「ホント!?私と4つも違うの!?」
「…どういう意味かな?」

あはは、と、アイリスは笑ってごまかす。

「ユイトは?」
「僕も二十歳だよ。グレイスより誕生日は早い」
「…クロムは?」

微かに上目遣いでアイリスが聞いてくる。
いちいち動揺する自分に叱咤しながら、クロムは応えた。

「俺はまだ18!お酒は飲めません」

っていっても飲むけどな…
とは口に出さない。

「…そっか~」

ため息とも感嘆ともつかない息を吐いて言うアイリスに、クロムは少し笑う。

「何、ほっとしてる?」

馬鹿にした調子に気付いたのか、アイリスは少しむっとした様子で否定した。

「・・・別に~」

…その態度でもう肯定してるって。
などと思いながら、クロムは胸が少しあたたかくなるのを感じた。


見詰め合う二人の入り込めないような空気に、グレイスとユイトは悔しい思いをしたとかしないとか…(笑)

終わっとけ。

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イリーガル・マインド ・9・

「おっそーい!料理来てるよ~!!」

戻ってきたグレイスたちに、声をかけようか迷っているクロムを知ってか知らずか、アイリスが声を上げる。

「ああ、ごめんねー」
「……」

クロムの懸念は外れていなかったらしく、二人の間に流れる空気はどこかおかしい。
自分の言ったことに対して、なにか二人の間に揉め事でもあったのだろうか。

思い悩むクロムを尻目に、グレイスとユイトは食事に手をつけ始める。

気まずい沈黙の中、カチャカチャと食器のぶつかる音だけが響く。

(さっきの騒がしさが嘘みたいだ…)

ふとそんなことを思ったときだった。

「アイリスちゃん」

沈黙を破るかのように、ユイトがアイリスに話しかけた。

「ん?なに?」

周りの不穏な空気に気付かず、ただ単に食事に専念していただけのアイリスが顔を上げる。
どこまで天然なんだこの娘は…
クロムは知らずため息をついた。

「君、機械には強い方かい?…パソコン、とか、ネット使ったりする?」

ユイトの言葉に、今度はクロムの方が態度が硬化する番だった。

(こいつ…!)

しかし、言葉を口にしようとしたところを、グレイスが無言で制する。

少し緊迫した雰囲気の中、あくまで暢気にアイリスは応えた。

「私パソコン好きくないのよね~」

「あ~、機械オンチ?」

すかさず茶々を入れてくるあたり、グレイスはさすがだ。

「むっ!馬鹿にしたわね!…でも、少しぐらい弄ったりはするよ?」
「最近変わったことはない?」
「変わったこと?…別に?」

「何でそんなこと聞くんだよ、ユイト」

やっとグレイスの視線での制止が解けたので、クロムは会話をとめにかかる。
この会話は、さっきユイトが自分にした話と同じ類の意味を持つものに違いないのだ。
そんな危ないことにアイリスを巻き込むわけには行かない。

「あ、いや…なんでもないよクロム、気にしないで」

言外に、自分への牽制をこめられているのを感じながら、クロムはユイトの言葉を受けた。

静かな攻防が起きようとしていた。
ただ、誰が信じられなくて、誰を信じていいのか、わからないままに。

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2004/10/31

イリーガル・マインド ・8・

グレイスとユイトを見送って、クロムがアイリスの手に目をやると、袋が目に入った。

「アイリス、それ買ってもらったのか?」

クロムはその袋を指差した。

「え?ああ、うん、そうだよ。あとね、これっ!」

アイリスはあわてて別の袋を取り出し、クロムの前に中身を取り出してみせる。
ころん、と音を立てて、鈍く光る何かが転がった。

「…シルバーのリング?男物じゃん」

自分のものを買ってもらいに行ったはずなのに、これはどう考えてもアイリスに似合う部類のアクセサリーではない。
不思議に思いアイリスに目を向けると、アイリスは照れたように笑う。

「これ、クロムに」
「おれに?何で?」

グレイスには男に物をただで買ってくれるような奴ではない。
どう考えてもおかしい、そうクロムが口にしようとすると、アイリスが続けた。

「あのね、グレイスの目を盗んで私が買ったの。なんか似合いそうだなって思って」
「ほんとに?」

人に何かを貰うという行為が、自分の人生の中には数少ないことだったので、クロムは戸惑いを感じた。
その沈黙を、アイリスは訝る。

「あれ~?嬉しくない?クロム、シルバーのアクセしてるから好きかなーって思ったんだけど」

確かに、クロムはシルバーのピアスを左耳に一つ、ブレスレットを右腕に一つ身につけていた。
今度はその洞察力に驚く。

「…いや、嬉しい。ありがとう」

やっとのことで笑顔を浮かべると、アイリスの顔がぱあっと華やいだ。

「うん、どういたしまして!」




トイレのドアを閉めると、どことなく薄暗い空間が広がる。
グレイスは、店内の光が全て遮られる前に、ライターの火をつけた。

「グレイス、僕は煙草が嫌いだ」

ユイトが静かに呟いた。
グレイスは一瞬瞳を上げると、薄く笑う。

「知ってるよ。一本ぐらい吸わせろ」

ユイトはそれにため息をつく。

「それで?クロムには話したのか?あのこと」
「話したよ。あまり乗り気ではなかったけどね」
「ふうん…アイリスちゃんのことは?」
「もちろん言ってないよ。言えば僕の身に危害が及びそうだったからね」
「…そうだな、クロムの奴、アイリスちゃんに結構入れ込んでるみたいだからな…
俺たちが、アイリスちゃんを狙ってる、なんて言って黙ってる訳ゃ無い、よな」

グレイスは、深く煙を吸い込んだ。
そして、再び口を開く。

「…アイリスちゃんは知ってると思うか?ウイルスのこと」
「…知っている筈だ。…だから、生かしては置けない」

グレイスが、無言で紫煙を吐き出す。
ユイトは、それを鋭い視線で射抜いた。

「グレイス」
「あん?」
「気が進まないんじゃないだろうね?」

グレイスは答えない。
沈黙がしばし横たわる。

ギイ、と音を立てて、グレイスがドアを開いた。
振り返ってユイトを見る。

「そろそろ、料理が来たんじゃないか?行こうぜ」

来た時と同じように、バタン、と音を立てて、ドアが閉まった。
ユイトは、その閉じられていくドアを見詰めていた。

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2004/10/14

イリーガル・マインド ・7・

ユイトが持ちかけた話の内容を要約するなら、こういうことだった。

彼らはとある筋から、パソコンのデータを読み取り、その後に破壊するというウイルスを預かった。
彼らの仕事はそのウイルスの管理である。
指定されたデータのもとへとウイルスを流すのが主な内容だ。

成功させれば、報酬は今まで見たこともないほどの額をもらえるらしい。

「…で、ウイルスを送りつける先はどこなんだよ」
投げやりな口調でクロムは訊ねる。
「それは、言えない」
「言えない?」
「まだ、君が協力するかどうか、聞いてないからね」

しれっとした態度で、ユイトは言う。

「はーん、俺にも選ぶ権利をくれるのかよ」
「まぁ、ゆっくり考えてくれていいよ。でも…僕個人としては、君に協力してもらいたい。君は頭がいいし、いざとなれば喧嘩も強い。…勘も、いいだろ?」

クロムは少し沈黙して、ユイトを睨む。

「よっぽどヤバイ相手らしいな…俺の勘をアテにするなんて」
「この話は嫌だったかい?」
「…わかっててやってんだろ?」
「そうだね」
「性格悪くなったなお前…」

クロムは苦笑して二人の間に流れた緊張の空気を解いた。

「まぁ、相手を言わないのは懸命だったな。…俺はやらないからな」
「クロム!」
「俺は金には困ってねぇんだよ」

この話は終わり、とばかりに、クロムは手元の水を飲み干す。
なお言い募ろうとしたユイトが口を開いた時、再び店の戸の開く音がした。

開いた戸のほうに目をやると、アイリスとグレイスが店内に戻ってきたところだった。

「たっだいま~★…ン?クロムどしたの?顔が暗いぞー!おなかすいたの?」
顔がいいんだから笑え!と、よくわからない理屈で、アイリスはクロムの頬をつねった。
「いてててて!わかった!わかったからつねるな!引っ張るな!」
アイリスの騒がしさはどこにいても変わらないようだ。
グレイスも、心なしか疲れているように見える。

「あー、俺、煙草吸ってくる。此処禁煙だし…ユイト、付き合え」

横柄な物言いで、グレイスはユイトを連れ出す。

「どこに行くんだい?」
「トイレ!」

ユイトの問いにぞんざいに答えるグレイス。
ユイトは、「多分そっちも禁煙だよ…」と呟きながらその後に続いた。

「あの二人、怪しくなーい?」
アイリスが面白そうにクロムに言うが、
「怪しいって、何が?」
クロムは何も判っていなかった。

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2004/09/22

イリーガル・マインド ・6・

「ところで、クロム。君は今この街に住んでいるのかい?」

一息つくと、おもむろにユイトがクロムに尋ねた。
クロムはそれに反応して、ふと隣に座るユイトを見る。

「ああ、この街で安いホテル借りて、そこに居座ってるよ。昨日はアイリスもそこに泊まったんだ」
「…ふうん」

そう言ってユイトは一瞬怜悧な瞳をした。
名前を出されたアイリスは、それに気付くことなくグレイスとの不毛な舌戦を繰り広げていた。
クロムはそれを見ながら苦笑する。

「それで、どうやって生計を立てているんだい?」
「え?ああ、そうだなー。とりあえずは大体ストリートファイトで稼げてるからな…」
「そうか…。クロム、昔から喧嘩は強かったからね」

懐かしそうな声を出すユイトに、クロムも遠くを見るような瞳をする。
何も知らずに、幸せだったあの頃。
…しかし、それがまやかしだと知ったのも、その頃だった。

「昔からって、3人はいつからの友達なの?」

静かになった2人の間に、突然アイリスが会話を振ってきた。
その問いにはグレイスが答える。

「そうだな…大体10年位前から…か?」
「ずっと一緒だったよね。いつも3人で遊んでた」
「幼馴染、ってやつだよな」

微かに在りし日々の情景を思い出すが、それは郷愁と同時に痛みをも呼び起こす。
それを振り切るように、クロムはわざと明るい声で話を変えた。

「な、お前らは今なにしてるんだ?」

その問いに、しかしユイトたちの反応は鈍かった。

「えーと、ね。今僕たちにはある目的があって…」
「目的?なんだよそれ」
「うーん…」

はっきりしない物言いに、クロムは焦れるが、ユイトが取り繕うように窓の外を見る。

「あ、アイリスちゃん、路上でアクセサリー売ってるよ。君、ああいうの好きじゃない?」
「…ほんとだっ!クロム、行こっ?」
「あー、俺が行くよ。クロムじゃ頼りないからな~」

有無を言わせずグレイスが立ち上がる。

「頼りないってなんだよ!」
「うーん、女の子みたいな顔してるところとか?」
「女顔って言うな!!」

立ち上がろうとするクロムの袖を、ユイトが僅かに引く。
クロムは微かに瞠目した。

「うぅ~?アクセも買ってくれるの?グレイス」
「…君はおねだり上手だね…」

ちっとも収まらないやかましさのまま、アイリスとグレイスは一度店外に出た。
クロムはそれを見送ると、ため息をついてユイトを見やる。
ユイトは優雅に水を口に運んでいた。

「アイリスに聞かれるとまずい話でもあるのか?」

少し拗ねた瞳でユイトを睨むと、ユイトは少しに笑って、クロムの瞳を見た。

「クロム。君に聞いて欲しいことがある」
「…なんだよ」

神妙な顔で言われるが、なんだか妙な感じがする。
何が、と問われても答えることは出来ないが、微かな、違和感。

「僕とグレイスは今、ある計画を立てている」

ユイトは指を組んで、静かに話し始めた。

「それが成功すれば、僕たちは貧しさで、飢えで苦しむことはしなくてすむ。幸福になれるんだ」

目に浮かぶのは、神にさえ見捨てられたと思うほどの冷たい世界。

――ユイト?

「クロム、君も一口乗らないか?」

『いつか、思い知らせてやるんだ』

かつての自分たちが吐いた呪いを、再び耳元で聞いた気がした。

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2004/09/19

イリーガル・マインド ・5・

夜は酒場として開店している店も、昼間にはまっとうなレストランの風情があるから不思議だ。
クロムがそんな感慨にとらわれていると、

「私こーこ!」

と、異様なまでのはしゃぎようで、アイリスが窓際の席に陣取った。
その瞳はクロムに向けられ、隣に座ることを期待しているように見えた。

「じゃ…」
「んじゃ俺はこーこっ」

アイリスの隣に座ろうとしたクロムを遮るようにグレイスがアイリスの隣の椅子にガタガタ音を立てて座った。
ぴし、と、空気にひびが入る。

――グレイス、わざとなのか、それとも気付かなかったのか…?

どっちでも腹が立つ、と思いながらも、仕方なしにクロムはアイリスの向かい側に座った。

「えぇ~、グレイスが隣~?」
「なんだよ、つめてぇなぁ。いいだろー?アイリスちゃんvv」
「…別にいーですけどね~?」

アイリスはグレイスに対して冷たくあしらう。
グレイスはそんな態度にも怯まない。
たいした神経をしている、と、クロムは呆れの視線を送る。

「ご注文はお決まりですか?」

しばらくすると、ウェイトレスが品よくやってきた。
それにいち早く反応したのはユイトだった。

「はい、僕は海鮮のパスタとジャガイモの冷製スープ」
「あ、俺もそれと~、後は…」

グレイスは意味ありげに瞳をあげると、間を置いて続けた。

「…マンハッタンだ。『レッドチェリー』を忘れるなよ?」

グレイスが続けたのは、カクテルの名前だった。
マンハッタンというカクテルは、 カナディアン・ウィスキー、スィート・ベルモット 、アロマチック・ビターズをステアしたものだ。
そして、種を抜いたチェリーをシロップ漬けにして赤く着色した『レッド・チェリー』をカクテルピックに刺して沈めるのが定番だ。


「お前それカクテルじゃん。いいのか~?昼間っから」
「いーのいーの、俺強いから」
「そういう問題じゃねえよ…」
「『マンハッタン』ねぇ。グレイスにぴったりじゃないか。インディアンの言葉で、『酔っ払う』という意味らしいよ」

ユイトがメニューを覗き込んでその説明文を読んだ。
クロムもそれを覗き込む。

「あ、ほんとだ。…ん?なんだよグレイス、『レッドチェリー』ってレシピの中に入ってんじゃん。いちいち言う必要あるのか?」
「こないだ他の店で入れ忘れられたんだよ。いいだろ、どうでも」

いかにもめんどくさそうにグレイスが答えると、クロムは「細かい奴」と鼻を鳴らした。

「えーと、俺はピザとコークで」
「はい、そちらの方は…」
「んっと私はね、グラタンとハンバーグとパスタサラダとオレンジジュース!」

ウェイトレスに言葉をかけられた途端目を輝かせてそう叫ぶアイリスに、半ば呆れてクロムは笑う。

「またいっぱい頼んでる…」
「そんなに食うの?アイリスちゃん…」
「いいじゃなーい。あなたのおごりなんでしょ?」
「…ちゃっかりしてるよ…」

「以上です」
「かしこまりました、少々お待ちください」

騒ぎ始めたクロムたちを無視する形で、ユイトが涼しげに注文を打ち切った。
漫才のようなやり取りに、傍目からはユイトは冷静な傍観者に見えただろう。
だから、ウェイトレスが注文を繰り返している間、ユイトがひたとアイリスだけを見ていたことに、誰も気付かなかった。

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2004/09/11

イリーガル・マインド ・4・

昼時の雑踏の中、クロムとアイリスの後を歩きながら、グレイスは静かにユイトに話しかける。

「なぁ…本当にあの娘なのか?」
「あぁ、間違いない。アイリス・ウィッシュハート…偶然にもクロムと一緒にいてくれるとは…警戒心を解く手間が省けて助かったね」

戸惑いと躊躇いを含むグレイスの声に、ユイトはなんでもないことのように返す。
しかし、それはグレイスに更なる戸惑いを感じさせた。

「…そうか…」

その戸惑いと、違和感にも似た感覚に、まるで自分をごまかすようにそう呟いた。

「グレイス、わかっているだろう?君が女の子に対して手荒なことをするのに抵抗があるのはわかっているけど、これは僕たちが幸福になるための手段なんだ。躊躇っている場合じゃないよ」
「…わかってるよ」

苛立ったように応えると、グレイスは煙草を取り出して、火をつけた。
その紫煙は、彼の歩く道をたどっていく。
彼のその視線の先には、懐かしい友人と、今彼らが必要としている彼女がいた。

「ふーん、クロムってスケボー乗るんだ!」
「あぁ、今は店に調整に出してるけどな」
「私後ろに乗りたいなー!いい?」

再び上目遣い炸裂!
――それ、反則…
クロムは軽い目眩を覚えながら、苦笑する。
これが計算づくならまだ対抗できるが、どうも天然らしい。

「…いいけど、でもなー、俺パワーないしー。君、おっこっちゃうかもね」
「あっははは、うっそくさー!超強いのに!!」

――自分が少し貶められていることにもあまり頓着しないし…
クロムは再び苦笑する。
天然には対抗できない。

視線を上にずらすと、目当ての店の看板が目に飛び込んできた。
後ろを振り向くと、グレイスとユイトは遅れ気味に歩いているのが見えた。

「おーい、グレイス、ユイト!遅いぞ~!」
「おいてくぞ~!」

すかさずアイリスが続ける。

「お前、おごってもらうんだろ?」
「あっ、そっか。はーやくー!!」

現金な奴、と少し笑ってみても、やはりなんだか他の男におごらせると言うのは面白くない。
――特定の意味はないけどな!
と、自分に言い訳をしているような気もするけれど。

「…俺がおごってやってもいいんだぜ?」
「…んん~~?」

挑発してみたが、アイリスはわからない、と言うように首をひねる。
意味が通じなかったことに、ほっとしたような、がっくりきたような…

「ははっ、ニブチン!」
「えぇ~、なにそれ!」

笑って見せると、アイリスはふくれっつらでクロムを軽く睨んだ。
その顔がおかしくて、笑ってしまう。

「はいは~い、遅れてごめんよっ!寒いし早く中入ろうぜ!」

グレイスがそう急かすと、店のドアに手をかけた。
押して開くと、涼しげな鉦の音が、カランカラン…と耳に響いた。

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2004/09/07

イリーガル・マインド ・3・

「…え?申し訳ございませんお客様、もう1度…」
「だーからー、チェリーバニラとチョコチップとカシスシャーベットとストロベリークリームとアップルピンクだってば!!」
「おいアイリス、本気か!?5段も食うの!?」

屋台のアイスクリームショップ。
この騒ぎは、しかし街の喧騒に打ち消され、店員は少し顔を引きつらせている。

「うんv私アイス好きなのvv…クロム嫌い?」

大きな瞳で上目遣いに見るアイリスに、クロムは思わず詰まってしまう。

「ぃゃ…好きだけど…ι」
「好きなのに2段でいいの?」
「…普通は、そういうもんじゃないのかな…?」

押しの強いアイリスに、クロムの顔も引きつる。

「そうかなぁー。私、好きな物はとことんやるのが好きなの。もちろん嫌いな物は死んでもやらない!」

宣言するようにアイリスは言う。
――なんだその偉そうに立てた人差し指は。
このテンションに付き合っていると、自分の方が間違っている気までしてくる。

「すっきりはっきりしたのが好きなんだな…ってうわデカ!!」

自分を納得させようとひとりごちた言葉を言い終わる前に、アイリスが5段に重ねたアイスを受け取っていた。

「あはは~ιさすがに5段は大きいね~ι」

――後先考えてなかっただけかい!!

そんなアイリスに、クロムがため息をつこうとした時だった。


「クーロムっ!」

がしっ

クロムの身体にのしかかるものがあった。

この声は女ではない。
重い。とてつもなく重い。と言うことは大男だ。

――知り合いにこんなことするやついたかなぁ。

この危険な街では一歩間違えば命取りになりかねない状況を、クロムはなんとも暢気にそんなことを思っていた。
そして、のしかかってきた人間の顔を拝もうと振り向く。

のしかかっている大男は満面の笑みで、そのなかなか整った顔をクロムに近づける。
ダークブラウンの髪、黒い瞳。
少し悪そうな雰囲気を持っているが、女の子にはべた甘なのをクロムは知っていた。

大男の肩越しに、もう一人、こちらは少し目つきの鋭い、クロムと同じくらいの体系の少年が立っているのが見えた。
彼の方は、グレイアッシュの髪、此処からは見えないが瞳は淡いブルーをしているはずだ。

「…あー!グレイス!ユイト!!」

懐かしさから思わずクロムは声を上げた。

「久しぶりだね、クロム。相変わらず元気そうだ…」

華奢な体系をしたユイトの方が、クロムに話しかけてくる。

「なんだよー、お前ら全然連絡ねーんだもん、てっきり死んだとばっかり…」

遠慮ないクロムの言葉に、ユイトは苦笑する。

「それはひどいなー。…うん、ちょっと2人である計画を立ててたからね。連絡取れなかったのはそのせいだよ」
「計画…?」

クロムが詳しく聞こうとしたとき、ほったらかしにしておいたグレイスの声が聞こえた。

「へー、アイリスちゃんていうんだ。いくつ?」
「16よ。あなたたち、クロムのお友達?」
「あぁ。ま、ちょっとした幼馴染…みたいなもんかな?君は?」
「昨日知り合ったばっかりなの。私、クロムのこと噂で聞い…て…あぁーーーー!!」
「あ゛ι」

べしゃ、と無残な音を立てて、アイスクリームショップ店員の偉大な作品が崩れ落ちた。
後ろで、店員のため息が聞こえる。

「アイス…落としちゃった…ι」
「あーあー5段も買うからだよ…」

クロムは呆れた声を上げる。
それに向かってアイリスは非難の瞳を向ける。

――別に俺が落としたわけじゃないぞ…ι

「ごめんねー、俺と話してたから溶けちゃったんだね…というわけで、どう?飯でも」
「口説いてるんじゃないよ、グレイス」

ユイトは慣れた口調でグレイスに釘を刺す。
しかし敵も慣れたものだ。

「まだ口説いちゃいねーよ、ナンパしてるだけだ」
「同じだ!!」
「まあまあ、でもアイス落ちちゃったし…ね!クロム!ご飯食べに行かない?」

アイリスはそんな2人のやり取りを気にすることもなく、クロムに提案を持ちかけた。
クロムはすでに諦め気分だ。

「ああ、いいよ…グレイス、おごってくれんの?」
「野郎にはおごりませーん」
「ちぇー」

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2004/09/01

イリーガル・マインド ・2.5・


「よっし、第一段階、『どきどき☆当たり屋作戦~学園ドラマ風味~』成功ね!」

「ん?なんか言ったかアイリス?」
「ううん、なんでもないの。あ、そうだクロム。私今日泊まるところないんだ~。クロムが泊まってるところに口利いてくれない?」
「はぁ!?おまっ、それは無謀だろ!どうやって此処まできたんだよ!?」
「天性のセンスかな。えへへ」
「えへへじゃないよ!全く。女の子がこんなとこ一人で、しかも夜に歩いてるなんて…」
「じゃあ、口利いてくれるでしょ?クロム」
「…はぁ、わかったよ…」

「第二段階、『無理矢理☆クロムにくっついてっちゃえ!作戦』も成功~!」

「…アイリス?ιι」

世話焼きクロムと小悪魔アイリスの出会い編でした☆(笑)

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