イリーガル・マインド ・7・
ユイトが持ちかけた話の内容を要約するなら、こういうことだった。
彼らはとある筋から、パソコンのデータを読み取り、その後に破壊するというウイルスを預かった。
彼らの仕事はそのウイルスの管理である。
指定されたデータのもとへとウイルスを流すのが主な内容だ。
成功させれば、報酬は今まで見たこともないほどの額をもらえるらしい。
「…で、ウイルスを送りつける先はどこなんだよ」
投げやりな口調でクロムは訊ねる。
「それは、言えない」
「言えない?」
「まだ、君が協力するかどうか、聞いてないからね」
しれっとした態度で、ユイトは言う。
「はーん、俺にも選ぶ権利をくれるのかよ」
「まぁ、ゆっくり考えてくれていいよ。でも…僕個人としては、君に協力してもらいたい。君は頭がいいし、いざとなれば喧嘩も強い。…勘も、いいだろ?」
クロムは少し沈黙して、ユイトを睨む。
「よっぽどヤバイ相手らしいな…俺の勘をアテにするなんて」
「この話は嫌だったかい?」
「…わかっててやってんだろ?」
「そうだね」
「性格悪くなったなお前…」
クロムは苦笑して二人の間に流れた緊張の空気を解いた。
「まぁ、相手を言わないのは懸命だったな。…俺はやらないからな」
「クロム!」
「俺は金には困ってねぇんだよ」
この話は終わり、とばかりに、クロムは手元の水を飲み干す。
なお言い募ろうとしたユイトが口を開いた時、再び店の戸の開く音がした。
開いた戸のほうに目をやると、アイリスとグレイスが店内に戻ってきたところだった。
「たっだいま~★…ン?クロムどしたの?顔が暗いぞー!おなかすいたの?」
顔がいいんだから笑え!と、よくわからない理屈で、アイリスはクロムの頬をつねった。
「いてててて!わかった!わかったからつねるな!引っ張るな!」
アイリスの騒がしさはどこにいても変わらないようだ。
グレイスも、心なしか疲れているように見える。
「あー、俺、煙草吸ってくる。此処禁煙だし…ユイト、付き合え」
横柄な物言いで、グレイスはユイトを連れ出す。
「どこに行くんだい?」
「トイレ!」
ユイトの問いにぞんざいに答えるグレイス。
ユイトは、「多分そっちも禁煙だよ…」と呟きながらその後に続いた。
「あの二人、怪しくなーい?」
アイリスが面白そうにクロムに言うが、
「怪しいって、何が?」
クロムは何も判っていなかった。
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