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2004/09/19

イリーガル・マインド ・5・

夜は酒場として開店している店も、昼間にはまっとうなレストランの風情があるから不思議だ。
クロムがそんな感慨にとらわれていると、

「私こーこ!」

と、異様なまでのはしゃぎようで、アイリスが窓際の席に陣取った。
その瞳はクロムに向けられ、隣に座ることを期待しているように見えた。

「じゃ…」
「んじゃ俺はこーこっ」

アイリスの隣に座ろうとしたクロムを遮るようにグレイスがアイリスの隣の椅子にガタガタ音を立てて座った。
ぴし、と、空気にひびが入る。

――グレイス、わざとなのか、それとも気付かなかったのか…?

どっちでも腹が立つ、と思いながらも、仕方なしにクロムはアイリスの向かい側に座った。

「えぇ~、グレイスが隣~?」
「なんだよ、つめてぇなぁ。いいだろー?アイリスちゃんvv」
「…別にいーですけどね~?」

アイリスはグレイスに対して冷たくあしらう。
グレイスはそんな態度にも怯まない。
たいした神経をしている、と、クロムは呆れの視線を送る。

「ご注文はお決まりですか?」

しばらくすると、ウェイトレスが品よくやってきた。
それにいち早く反応したのはユイトだった。

「はい、僕は海鮮のパスタとジャガイモの冷製スープ」
「あ、俺もそれと~、後は…」

グレイスは意味ありげに瞳をあげると、間を置いて続けた。

「…マンハッタンだ。『レッドチェリー』を忘れるなよ?」

グレイスが続けたのは、カクテルの名前だった。
マンハッタンというカクテルは、 カナディアン・ウィスキー、スィート・ベルモット 、アロマチック・ビターズをステアしたものだ。
そして、種を抜いたチェリーをシロップ漬けにして赤く着色した『レッド・チェリー』をカクテルピックに刺して沈めるのが定番だ。


「お前それカクテルじゃん。いいのか~?昼間っから」
「いーのいーの、俺強いから」
「そういう問題じゃねえよ…」
「『マンハッタン』ねぇ。グレイスにぴったりじゃないか。インディアンの言葉で、『酔っ払う』という意味らしいよ」

ユイトがメニューを覗き込んでその説明文を読んだ。
クロムもそれを覗き込む。

「あ、ほんとだ。…ん?なんだよグレイス、『レッドチェリー』ってレシピの中に入ってんじゃん。いちいち言う必要あるのか?」
「こないだ他の店で入れ忘れられたんだよ。いいだろ、どうでも」

いかにもめんどくさそうにグレイスが答えると、クロムは「細かい奴」と鼻を鳴らした。

「えーと、俺はピザとコークで」
「はい、そちらの方は…」
「んっと私はね、グラタンとハンバーグとパスタサラダとオレンジジュース!」

ウェイトレスに言葉をかけられた途端目を輝かせてそう叫ぶアイリスに、半ば呆れてクロムは笑う。

「またいっぱい頼んでる…」
「そんなに食うの?アイリスちゃん…」
「いいじゃなーい。あなたのおごりなんでしょ?」
「…ちゃっかりしてるよ…」

「以上です」
「かしこまりました、少々お待ちください」

騒ぎ始めたクロムたちを無視する形で、ユイトが涼しげに注文を打ち切った。
漫才のようなやり取りに、傍目からはユイトは冷静な傍観者に見えただろう。
だから、ウェイトレスが注文を繰り返している間、ユイトがひたとアイリスだけを見ていたことに、誰も気付かなかった。

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