「…え?申し訳ございませんお客様、もう1度…」
「だーからー、チェリーバニラとチョコチップとカシスシャーベットとストロベリークリームとアップルピンクだってば!!」
「おいアイリス、本気か!?5段も食うの!?」
屋台のアイスクリームショップ。
この騒ぎは、しかし街の喧騒に打ち消され、店員は少し顔を引きつらせている。
「うんv私アイス好きなのvv…クロム嫌い?」
大きな瞳で上目遣いに見るアイリスに、クロムは思わず詰まってしまう。
「ぃゃ…好きだけど…ι」
「好きなのに2段でいいの?」
「…普通は、そういうもんじゃないのかな…?」
押しの強いアイリスに、クロムの顔も引きつる。
「そうかなぁー。私、好きな物はとことんやるのが好きなの。もちろん嫌いな物は死んでもやらない!」
宣言するようにアイリスは言う。
――なんだその偉そうに立てた人差し指は。
このテンションに付き合っていると、自分の方が間違っている気までしてくる。
「すっきりはっきりしたのが好きなんだな…ってうわデカ!!」
自分を納得させようとひとりごちた言葉を言い終わる前に、アイリスが5段に重ねたアイスを受け取っていた。
「あはは~ιさすがに5段は大きいね~ι」
――後先考えてなかっただけかい!!
そんなアイリスに、クロムがため息をつこうとした時だった。
「クーロムっ!」
がしっ
クロムの身体にのしかかるものがあった。
この声は女ではない。
重い。とてつもなく重い。と言うことは大男だ。
――知り合いにこんなことするやついたかなぁ。
この危険な街では一歩間違えば命取りになりかねない状況を、クロムはなんとも暢気にそんなことを思っていた。
そして、のしかかってきた人間の顔を拝もうと振り向く。
のしかかっている大男は満面の笑みで、そのなかなか整った顔をクロムに近づける。
ダークブラウンの髪、黒い瞳。
少し悪そうな雰囲気を持っているが、女の子にはべた甘なのをクロムは知っていた。
大男の肩越しに、もう一人、こちらは少し目つきの鋭い、クロムと同じくらいの体系の少年が立っているのが見えた。
彼の方は、グレイアッシュの髪、此処からは見えないが瞳は淡いブルーをしているはずだ。
「…あー!グレイス!ユイト!!」
懐かしさから思わずクロムは声を上げた。
「久しぶりだね、クロム。相変わらず元気そうだ…」
華奢な体系をしたユイトの方が、クロムに話しかけてくる。
「なんだよー、お前ら全然連絡ねーんだもん、てっきり死んだとばっかり…」
遠慮ないクロムの言葉に、ユイトは苦笑する。
「それはひどいなー。…うん、ちょっと2人である計画を立ててたからね。連絡取れなかったのはそのせいだよ」
「計画…?」
クロムが詳しく聞こうとしたとき、ほったらかしにしておいたグレイスの声が聞こえた。
「へー、アイリスちゃんていうんだ。いくつ?」
「16よ。あなたたち、クロムのお友達?」
「あぁ。ま、ちょっとした幼馴染…みたいなもんかな?君は?」
「昨日知り合ったばっかりなの。私、クロムのこと噂で聞い…て…あぁーーーー!!」
「あ゛ι」
べしゃ、と無残な音を立てて、アイスクリームショップ店員の偉大な作品が崩れ落ちた。
後ろで、店員のため息が聞こえる。
「アイス…落としちゃった…ι」
「あーあー5段も買うからだよ…」
クロムは呆れた声を上げる。
それに向かってアイリスは非難の瞳を向ける。
――別に俺が落としたわけじゃないぞ…ι
「ごめんねー、俺と話してたから溶けちゃったんだね…というわけで、どう?飯でも」
「口説いてるんじゃないよ、グレイス」
ユイトは慣れた口調でグレイスに釘を刺す。
しかし敵も慣れたものだ。
「まだ口説いちゃいねーよ、ナンパしてるだけだ」
「同じだ!!」
「まあまあ、でもアイス落ちちゃったし…ね!クロム!ご飯食べに行かない?」
アイリスはそんな2人のやり取りを気にすることもなく、クロムに提案を持ちかけた。
クロムはすでに諦め気分だ。
「ああ、いいよ…グレイス、おごってくれんの?」
「野郎にはおごりませーん」
「ちぇー」